其の104 スポーツマンのはずだ


 スポーツマンというものの存在が好きになれない。現在スポーツをしていないから言うのではないが、スポーツマンというものにはどうも胡散臭さを感じるのである。だからといって運動音痴だというわけでもなくて、小学生の頃は近所の野球チームに入って幾つかのメダルを手にしたこともあるし、中学生の頃は部活でハンドボールをやって大阪市で三位を二回と準優勝を一回、そして大阪市、京都市、神戸市からニチーム選抜されて闘う三都市大会で優勝したくらいであるから、どちらかというとハンサムなスポーツマンであったと言っても良いくらいである。何ならスポーツの若大将と呼ばれていても一向におかしくないし、若大将でないならスポーツのJビーフくらいの資格はあると思われる。それくらいスポーツに関して輝かしい成績を残している割にスポーツマンが嫌いなのである。高校生の時期くらいからか、スポーツというものに非常に懐疑的になったのであるが、それはスポーツというものの定義がよく解らなくなったからなのである。
 まずスポーツというものの本質は体を動かすということにあると思われる。これは寝たきり老人たちによるネタキリンピックというものは開かれていないようだし、植物人間たちによるプラントリンピックというのも聞いたことがないことからも解る。やはりスポーツと銘打つ限り体を動かすことはまず間違いないであろう。しかしここで疑問に思うのはどれくらい体を動かせばスポーツと認定されるのかということである。たしかにテレビでマラソンの中継を見たりすると彼らランナーの運動量には驚かされるし、その頑張り具合には拍手を送ってあげたくもなる。スポーツと言っても良かろう。また野球選手のボールを投げるスピードにも驚かされるし、ボクサーの勇気も賞賛したい。これもスポーツである。ところが殆ど体を動かさないにも関らず世間では立派にスポーツだと認定されているものもあるのである。たとえばモータースポーツと呼ばれているのがそうである。たしかにドライバーも大変かもしれない。わたしであれば思わず目を瞑ってしまうようなスピードの中で車を操るのだから普通の人間では出来ないであろう。しかしドライバーをスポーツマンであるとはどうしても思えないのである。むしろ運動しているのが車なのだからスポーツマンならぬスポーツカーというのが相応しいと思われる。また競馬もスポーツの範疇に入れられているがあれは騎手よりも馬がスポーツマンであるからスポーツ馬と呼ぶのが正しい。そして競馬における規定はスポーツ馬ス条約だ。常日頃スポーツマン面しているドライバーや騎手を見るにつけ、わたしの中ではスポーツマンどころか牛の角に乗っかる鼠としか考えられないのである。あと鼠ではないが、ダーツもオリンピックの競技となっているからスポーツと呼ばれているのであろう。よく解らないのである。スポーツというものは。
 こういう例からも解るように世間ではスポーツとは運動量やエネルギー消費量や技量などよりも多数の人間が支持しているか、人気があるかという点のみで、その行為がスポーツかどうか判断されているように思える。つまり他律的なのである。スポーツというのは。ということはある行為をスポーツであると言い張り、第三者が認めればそれはスポーツと言っても良いはずである。そしてその行為をしている人はスポーツマンなわけである。つまりギターのストロークもスポーツであるしそれをする人はスポーツマンだ。キーボードのタイピングもスポーツであるしそれをする人はスポーツマンだ。ダブルクリックもスポーツであるしそれをする人はスポーツマンなわけである。そんなものを好む人がいるとは思えないのだが、しかし世の中の特に若い婦女子の中には好みのタイプの欄に堂々とスポーツマンと記入する人が後を断たない。ちょっとどうかしているのではないか。ダブルクリックをしている人が魅力的か。乾布まさつをしている男性が趣味なのか。眼鏡を拭いている人となら結婚を考えても良いのか。よく考えてもらいたいものである。いや、いくらスポーツマンかもしれないけれども、誰でも出来ることをしている人が魅力的なわけじゃないの、凄い技量をもっていなくちゃ、という婦女子もいるだろう。それならばである。レコード屋に行って輸入盤のレコードを捲るのがスポーツならば、目にも止まらぬ速さで一枚一枚確認している人は素晴らしい技量をもった魅力的でカッコイイ結婚したくなる男性のタイプのはずだ。ついでに間違った場所にあったレコードをあるべきところに移動させる人は優しさも兼ね備えた人であるから百点満点のはずである。そしてわたしなどは大阪でもかなり上位にランクされるレコード捲りのプロであるからもっともてても良いはずだ。何故もてない。そ、それは解ったけどねえ、凄い技量をもっていることは認めるけど、やっぱりスポーツマンの魅力っていうのはねえ、少年のように目をきらきらさせながら夢中になっててねえ、爽やかに汗をかいているのがいいのよ。そんなレコードを捲るのが速いからって魅力的なわけぢゃないのよ、という聞き分けのない婦女子もいることであろう。ではわたしのカレーを喰っている姿を見てもらいたい。カレーを食らうのに夢中で、その美味さに目がきらきらしていて、その上爽やかに汗まで流しながらハフハフ喰っているのだぞ。自分でいうのも何だが、こんなのが魅力的か。
 世のスポーツマン好きの方に言いたい。わたしのようにスポーツマンを全否定しないのであれば、スポーツマンが好きだと言わずに、サッカーをしている人が好きだとか野球をしている人が好きだとかバスケットボールをしている人が好きだとか、厳密にその行為を特定してから好きだとか嫌いだとか言ってもらいたいものである。それでも好みのタイプにどうしてもスポーツマンと入れたいのであれば、汗をかきながらカレーを喰っている姿にときめくようになってもらいたいものだと切に願う。


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