其の12 お気に入り


 やっぱりインターネットしてるんですか? こういうことをよく訊かれる。やってませんというのも大人げないので、そうですね利用していますと答える。しかしインターネットをやるとは如何なものか。網をするとはいわんでしょうにね。投網でもするんかいななどと思ってしまう。わたし自身、日本語については大した見識があるわけでもないし、取り立てて気にしているわけでもないのだが、それでもインターネットするというフレーズにはどうも釈然としないものがある。利用してますという返答は当然気安くない人に対するものであるのだが、友人特に後輩関係に当たる人物に対してはセメントで挑むこともある。
「インターネットってどうやってするんですか?」
「うむ、知らぬ」
「とかいって今やってるじゃないですか」
「この画面のことか。これはウェブページというものぢゃが」
「でもこれがインターネットでしょ?」
「これがか? これがインターネットというものか。どうみてもダメ人間によるダメ人間の為のダメ人間帝国という読み物ぢゃと思うのだが、お主にはそう見えぬか」
「いや、そう書いてありますけど、こういうのがインターネットなんですよね」
「ほお、そう思うのか。お主は」
「それでこういうのホームページっていうんですよね」
「ん、ホームページか、それは森で屁をこくとタイトルされているこのページぢゃ」
「それじゃあダメ人間帝国はホームページじゃないんですか」
「わしにとっては違うがこれを書いておるダメ人間にとってはホームページである可能性もなきにしもあらずぢゃ」
「……」
「ときにお主は水道管をどうやってするのかと問われればどう答える」
「答えれれれませんね」
「答えれれれれれれぬか」
「言ってる意味わかれれれれれれれれれないんですけど」
「そうか、わかれれれれれれれれれれれれれれれぬか。わしにもわからぬ」
 まあこのように揶揄うのである。
 偉そうなことを言っている割にこの間までhttpは何の略かを知らなかったぐらいインターネットについての知識がないのだが、それでもインターネットをエロ画像の宝庫であると勘違いしているおやじ共に比べればましである。
 そういえば久しぶりに両親と食事をしたとき母上がこのようなことを言っていた。
「株価は下がるし、香港は返還されるし、世紀末やし、この先どうなるんやろね」
「とりあえず、後の二つはあんたには関係ないと思うけどな」
「親のことあんたいいなさんな、ほんまに何でこんな子に育ってしまってんやろ。そうそう、あんたインターネットやってるんやて?」
「利用してるけどな」
「じゃあこの先の日本の経済とか世界の政治とか人類とかどうなるん?」
「俺みたいなのにそんなこと聞いてどうするねん」
「だって最先端やろに。インターネットってなんでもわかるんやろ?」
「わかるわけないやろ! 特に人類の行く末なんかわかるわけない」
「なんやなんでもわかると思ってたのに。あんた高いパソコン買ってそんなこともわかれへんといったい何やってるの。ほんまに」
「日本経済の行く末とか世界の政治とかわかるぐらいだったらこんな所で大根の味噌汁すすってないって」
「それもそうやな。インターネットやってるいったって、所詮あんたやからな」
 結局はわたしの駄目さ加減を嘆いているのである。
 それはそうと、ネットスケープやらにはブックマークというものがついているのだが、同じ機能でインターネットエクスプローラーには「お気に入り」というものがついている。favoriteという言葉を日本語に訳しただけなのであるが、なかなか趣き深い日本語訳だ。ある日「インターネットをする」という表現をわたし以上に嘆いている知り合い宅に行ったときのこと、許可を得て知り合いのインターネットエクスプローラーを立ち上げウェブページを閲覧していたとき何気なく「お気に入り」を開いた。迂闊にもそこには一つのエロサイトがブックマークされていたのである。思わず「お気に入り」というのが好きで好きで堪らないという意味にとれ爆笑してしまった。
 この場合に限り「インターネットをした」という表現は適切であると思うのである。


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