続大阪雑文オフ(これは虚構です)


(前回よりの粗筋)
>にこたらにこたらでれでれでれ
>鼻の下が一尺くらいは間延びしている。
>ね、ね、実証してみなさい
>めろめろ状態
>まだいちゃらいちゃらといちゃついておる
>御乱心
>にへらにへらした顔
 以上前記録者よりの引用

 ということで刃物で刺された記録者は普段のように腹をさすりながら「あ、後は頼んだ」との言葉を最後に息をひきとったのであるが、しかし次はカラオケである。当日幹事をしていたLという男は非常に優柔不断なのか、カラオケの店すらどこにしてよいのか解らぬようで、取り敢えず歩くことにしたようだ。暫く歩いて泉の広場あたりのビッグエコーというチェーン店に入る。しかしJは今日はこれで帰るということである。Jの周りに別れを惜しむべく皆で集まる。「またこういう機会がありましたら是非に」という声も聞こえる中、如何なる意図があるのか解らないが「何だったら駅まで送りましょうか、大丈夫ですか、ね、ね」とKが言っていたことも付け加えておく。
 直に入れるということで十二人部屋をとったようだが、しかしこの店にはエレベータがなく、階段で四階まで登ることになった。店員について階段を登り始めたのは良いが、冷静な口調の割に酔いがまわっているのかAはうまく階段を登れないようだ。危なっかしい足取りのAを守るべくKとLは背後を固める。しかしほろ酔い気分で調子に乗っているKとLはついついいつもの癖なのかAにむかって「ひぇー、だいじょうぶでちゅかあ、足もつれてまちゅよー」などと幼児言葉でAを支えようとする。するとAがいきなり力強い声で「おい、いいかげんにしろ」と怒鳴りKとLは冷や汗をかいているようだ。特にLは小心者なのか顔面蒼白である。そして四階に到着すると、何故かGは物理学者なのに「店員よりも先に登ると自分たちの部屋が解らない」という特殊相対性理論を思い出せない程酔いがまわっているようで、五階より戻ろうとしていた。部屋に入ると思った以上に広い部屋である。部屋の場所を確認できたKとLは今回オフの出し物の一つ「リズムの合っていないギター演奏」の為、一旦ギターのあるLの車へと戻る。駐車場より戻ってくる途中煙草の切れたKとLは煙草の自動販売機の前で目的の煙草を探していると、ふいに背後より「すんません。お腹すいているんです。パンか何か貰えませんか」という声がする。一瞬、いつも腹をすかしているA-Sのボーカルではないかと驚いて振り向くと、そこにはしょぼくれたおっさんが一人立っていて、ほっとする。丁度財布を開いていたLが百円を渡すとおっさんは「えろう、すんません」と立ち去る。そして道すがら「ああいうのでも生きていけるんやなあ」「そうですね。やっぱり面と向かって、お腹すいているんです、って言われたらお金渡してしまいますよ」「いざとなったらあれしようか」「そうですね。いけますよね、ああいうの」と語り合う。こいつらは馬鹿である。
 店に戻ったKとLはそれぞれ空いている席に座る。席はテーブルを挟んだ馬蹄形である。入り口から順番にE、K、F、G、B、D、C、I、H、A、Lであった。たしか。
 既にBは飛ばしている。Bのカラオケ好きは聞いていたがここまでとは思ってもいなかった。取り敢えずBの歌った曲を覚えているだけ列挙する。
 「jijy」「昆虫軍」「玉姫様」「あんたが大将」「残酷な天使のテーゼ」「ヤッターマン」「サイボーグ009」「セーラームーンの主題歌」「渚のハイカラ人魚」「怪盗ルビイ」「超人バロム1」
 まだあったようにも思えるがこれだけでも中々凄いラインナップである。延長も含めて三時間部屋をとったのだが、一曲五分として約一時間である。十一人でのカラオケで三分の一の時間歌い続けるというのも凄まじい。
 Bの歌の合間をぬってそれぞれ歌う。Kが筋肉少女帯の「踊るダメ人間」を熱唱する。Fが隣で「だめだめー、だめだめー」とコーラスを入れる。皆Kに対して「ダメ人間」であるとの共通認識があるので盛り上がる。「踊るダメ人間」などという曲なのにAは冷静に「うまいねえ、歌い込んでるね」と評する。好青年Dも歌う。Dはギタリストだということだが良い声である。上手い。しかし記録者であるわたしは若向けの曲を知らないので誰の歌かは解らない。Bが「玉姫様」を歌い終えた頃既にへべれけであったEに異変が起る。だらりと頭をテーブルに乗っけていたEが突然がばっと起きだし、ひまわりを頬張ったハムスターのようにほっぺを膨らましているのだ。もっとも早く異変に気付いたAとLはEを部屋から連れ出しトイレへと向かう。惨劇がトイレの中で繰り広げられる。AとLはそこから離れるわけにもゆかず、何となく話し始める。「彼いくつ?」「たしか僕よりも一つか二つ上だったと思いますが」「え、Lぴょんっていくつなの?」「二十七っす」「二十七、二十七で雑文書いてちゃいかんよ」まったくEのことを心配している会話ではない。我々のことに気付いた店員がこちらの方をちらちら見る。仕方なくAとLは店員に謝りにゆく。店員にこっぴどく叱られる。店員より水の入った容器を渡されトイレを流しにゆく。二度ほど流した後、まだ汚れがあるものの二人で「これ以上やるとなったらきちんと掃除しないと仕方ない」との判断を下し、店員にこれで良いか判断をあおぐが、店員は首を縦に振らず、もう一度水の入った容器を手渡される。
 暫く外で休んでいた方が良いとの判断でぐったりしたEを部屋の外にあったソファに座らせる。AとEは何やら語り始める。Eの話では「やっぱ玉姫様が駄目だったっす。あれはもう駄目っす」とのことである。どういう意味なのか。
 深い話になりそうなのでLは部屋に戻る。さっきと同じ場所である。暫くするとAが戻ってくる。Aが座れるよう、Lが奥に詰めようとすると「そうじゃなくて」とLの前を無理矢理に通り、Aは座る。Lから順番にL、A、Hである。
 時計は十一時をまわっている。既に帰りの電車のことや次の日の仕事のことを考えてI、D、Fが帰宅する。店員が時間の終了を告げに来るが、一時間の延長をする。KとLはギターを手にしている。曲に合せて弾こうとするがLは殆ど弾くことが出来ず、勝手に練習をしている。知っている曲が出てくると二人とも張り切って弾く。しかし普段弾いているキーではない為、勝手にキーを上げ下げする。物理学者Gはいきなりキーが上がって苦しそうである。普通はギターが合せるのが当然なのだがそんなことお構いなしの二人。
 Kが中島みゆきメドレーを歌っている途中、Aが隣のLに「オフコースのメドレーある?」と言い、そしてLが予約する。時間も丁度終わりそうなので最後の曲になりそうである。Lが「時間もあと少しですし、Aさんに最後をしめてもらいましょう」と言う。「全部歌えないと思うなあ」と言いながらAが歌い始める。しかしそう言う割に全部知っている曲のようである。そして「さよなら」である。最後に相応しい曲である。しかし「さよならー、さよならー」と歌わせる癖に「オフコース・メドレー」にはまだ続きがあって、それは何でも最近の曲のようであり、Aはまったく知らない模様である。そして他に知っている者もいない。空しくカラオケが流れる。曲が終わる。何だか後味が悪い。とそのときけたたましい音と共に別の曲が始まる。「超人バロム1」であった。ぶろろろろー、ぶろろろろー、ぶろろろろろーとやけに擬音が多い歌である。「最後」という声が聞こえていたのかそうでないかは解らぬがBは黙々と歌う。雰囲気的には助かる。
 終了かと思ったが、あと少しあるようで店員はまだ来ない。そこでKとLによるギター演奏が始まる。何の打ち合わせもしていなかった為、お互い知っている曲を適当に弾く。最後は「I saw her standing there」である。Kの「何か盛り上がる曲にしよう」という言葉でLが始めたのだが、この曲のキーが高すぎてKには全部歌えないことに途中で気付いて焦る。しかし適当に護魔化して演奏を終え、皆部屋から出る。
 既に時間は十二時三十分を過ぎている。それでお開きにする。Aはホテルに戻る。Cは南方面だということで一人歩いてゆく。残りはB、E、G、H、K、Lである。一応、皆を送り届ける約束の為六人で駐車場へ向かう。五人でさえ苦しいカローラ2なのに助手席二人、後部座席三人と無理矢理に全員押し込む。パトカーが待ち受けている場所をかいくぐっての運転だった為、元より道を知らないLは余計に道に迷う。焦るL。しかしEはそんなことお構いなしにライディーンの歌を歌ったり、いきなりギアをニュートラルに入れて、運転者Lを余計に焦らせる。何とか道をHに聞きながらHとEを送り、そして次にGを送り届ける。最後はBである。Bの家はかなり遠い。Lは沈黙に耐えられなくなって色々と馬鹿なことを言うが、Kは二次会で盗ってきた酒をラッパ呑みしているし、Bは小さな声で歌っている。何だか真面目に運転するのが馬鹿らしくなってくるL。ようやくBを送り届けたKとLは帰りしな、本日のオフについて語り合う。
「Hは何だか凄い」「Bの歌は凄い」「Aが人差し指を振りながら話しているときは機嫌が良い」「Gは甘党」「Fは普段我々に接するときと違ってよく働いた」「Iが妻のことをお嫁さんと言わずに嫁と呼んだのは一回だけだ」「Dの子供の名前に牛丼はまずかろう」「C一人だけ車で送らなかったのはまずかったなあ」「Jは芦屋のお嬢様」「Eに酒は禁物だ」などと取り留めもない。
 K宅に到着して軽く食事をしながらもしかすると何処かで早速掲示板に書き込んでいる人がいないか探す。やはりBは凄い。一番最後に別れたはずなのに早くもKとLの笑いを取る書き込みをし
 わ、何ですかあなたたち、いきなり部屋に入ってきて。は、刃物を振り回すのはやめてください、刃物は怖い、ね、ね、危ないからね。「いい加減なことばっかり書きやがって」「おもしろくないことばっかりぶつぶつ言いやがって」「中途半端にリズムの合った演奏なんて聞きたくないんだよ」「やっぱり段取り悪いんだよ」「DNA」「二人して俺のこと馬鹿にしてるんだ。やっぱりそうなんだ」や、だか、だからわたしは前記録者の後を受けただけで、LであってLでないんで、です。だから殺すのなら前の記録者だけにしといてく、下さいってえ。わたしは別の次元にいる者なんですってええ。ひいいい、た、助けて。こ、殺さないでええ。僕はただの記録者なんです、Lぢゃないんですってえええええええええええええ……


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